2012年11月09日
第2回 田中山の山あそび
私の住む伊豆の国市に、田中山という地区がある。山の上にあるのだが、田中山とは地区の名前であって、山の名前ではない。そこで、この秋から小さなイベントを、仲間と一緒にはじめた。
その名も、「田中山の山あそび」。山の名前ではない田中山で、山あそびをしましょう、しかも、会場はカフェの一庭、という、回文的な、あそび感覚。だから、あそび。あとから考えた理由だけど。
会場は、カフェを兼ねた、はちみつ屋さんのお庭。ビーハイブさんという、その店主、村上さんとは、どこかのイベント出店で一緒になり、はちみつを一瓶、買い求めたのが、親しくなるきっかけだったと思う。
ビーハイブさんの宣伝を先にさせてもらうと・・・。はちみつが、さくら、みかん、クローバー、アカシア・・・というように、花の種類で選べるようになっている。どれも瓶のふたを開けた途端に、ふわっと、その花が香る。透き通るほどに金色の中身も、本当に美しい。普段は伊豆で、夏の間は北海道まで巣箱を3トントラックに乗せて運び、はたらきバチさんに大活躍してもらっているのだという。
わが家でのお気に入りは、パンやヨーグルトには菩提樹。コーヒーには、はぎ。そう。普段はブラックコーヒーしか飲まないのだが、はぎのはちみつが手に入ると、わりと、どっさりと入れて、はちみつとコーヒーの香りとコクを同時にゆったりと味わっている。
今年の春ごろ、村上さんが「今度、田中山に引っ越しました、庭も広いから、なにか一緒にしましょう」と声をかけてくれた。田中山って、おいしい野菜がとれるし、すいかの名産地じゃない?…と、わくわくする思いで聞いた。
しばらくして、田中山すいか祭りに誘われた。ビーハイブさんの向かいにある公民館が、すいか祭りの会場だから、「うちの庭でも小さな市でも開きたいの」と。
いいね、すいか! 大きいのを一つ、買いがてら・・・と出店したところ・・・。10時のイベント開始時には、すでに、すいかは完売という、不思議なイベントだった!! おいしいすいかを求めて、スタート前から行列ができ、気のいい田中山の農家さんたちは、時間など気にしないで、ほしい人にどんどん売ってしまったというわけだ(たぶん)。
それでも、人はビーハイブさんの庭にも流れてきて、バタバタと時間がすぎていった。あれ、すいか、買えてないよ!とあわてて、祭りの会場に飛んでいき、片付けをしている人たちに声をかけていった。あのー、すいかー、ほしいんですけどーー。
アイツに聞いてみて・・・と指さされた、アイツに、すいか、ほしいの・・・と言ったところ、あとで持っていってあげる、と快い返事。
私の店、ピザバスで待っていると、大男のアイツがやってきた。
片方の腕に小さなすいかを2つかかえ、もう片方の手で、ひざとひじをせわしなく指さしながら。
えっ? なに? あーー。ひざ? ひじ? うん、うちはピザだよ・・・。今どき、こんなことで人を笑わそうとする人がいるんだ!おかしかった。お金はいらないと言ってくれたすいかは、あまくておいしかった。
しばらくして、その彼、T君と、ビーハイブさんに遊びに行った。田中山、いいところでしょう? もっと盛り上げたいんだよ。若い人が少ないから、このままじゃ、人がいなくなっちゃう・・・と、田中山で生まれ育ったT君は、口早に熱く語る。
村上さんも、私も、田中山がいいところなのは、よくわかる。そして、人が集まってにぎわうことも好き。そうだね、月に1回、なにかやってみようよ・・・。そんな話になり、村上さんが最後に言った。「次の田中山を考える会、いつにする?」その瞬間が、会の発足時だと、私は、ひそかに認識している。
でも、田中山を考える会という名前の会は、以前から存在しているらしかった。じゃあ、名前はどうしよう、イベントのタイトルは? いつからはじめる?・・・という具体的なツメが、夜な夜な重なっていった。
そして、(しかしながら)会の名前は未定のまま、イベント「田中山の山あそび」が誕生した。第1回は9月の最終週、10月は第1週の、それぞれ週末に(10月は月曜日が祝日だったので、実際には日・月)に開催した。した、というよりは、してしまった、という勢いのある感じだけれど。
9月は、村上さんやT君の友達やピザバスの常連さんが来てくれて、まあまあの盛り上がりだった。10月は、観光客も結構、来てくれて、忙しかった。どちらの回も、前日に地元の旅館や飲食店にチラシを配った程度の宣伝しかしていないというのに・・・。
イベントの副題には、「ちいさな市と、農業体験」と銘打ってある。出店や出品は、毎回、せいぜい10店舗程度。プラス、主催者と応援者によって、「田中山おにぎりランチ」が用意される。
地元産の白米に黒米を混ぜて炊いたご飯でおにぎりをむすび、季節の野菜を少し添えただけの、シンプルなランチ。青竹を割ってつくったシンプルなお皿に、葉っぱを敷いておさめると、これが、ほのぼのとして、いい雰囲気。毎回、あっという間に完売してしまう、人気メニューのひとつだ(お皿は、いちご農家のS君がつくってくれている)。
農業体験は、昼夜の寒暖の差が大きい田中山は畑作が盛んだし、普段、畑や土にふれることの少ない(であろう)都会の人などに、癒しも兼ねて、命につながる体験をしてもらえたら・・・という思いで加えた。
1回目は、不耕起栽培という、畑を耕さない、起こさない、もちろん農薬や化学肥料は使わない、という農法に取り組む、田中山の康晴農楽園さんに協力してもらい、さつまいもと落花生の収穫体験を行った。
ここの野菜は、のびのび育ててもらったの! と、笑っているような表情をしている。しかも、野菜の味がきちんとする。背筋がピンとまっすぐな感じ。絶対、無駄にはいたしません、と、思わず手を合わせて誓わずにはいられないような野菜。もちろん、それは、おいしいからだ。
ちなみに不耕起というのは、土は深さによって棲む微生物が異なるから、その生態環境を壊さないために耕さないし起こさないそうだ。自然のままにしておくと、微生物たちがしっかりと働いてくれて、肥料や農薬を与えなくても、病気にも虫にもやられない、元気で丈夫な野菜に育つのだという。その代わりに、相手はどこまでも「自然」だから、一般的な農業とは比較にならないほど、さまざまな知恵や技術の研鑽を必要としているように見受けられる。
農業体験の2回目は、T君の畑、takada Farmさんで、さといも、さつまいも、落花生を収穫した。季節がら収穫体験が続いたけれど、機会があれば、種まきや苗植えなども盛り込んでみたいと考えている。また、村上さんたちとは共同で畑を借りて、田中山の新しい特産物をつくるための耕作をしてみようか…その畑で農業体験というのもいいよね、という話もしている。
また、田中山の山あそびに、手づくり体験も大切なメニューのひとつになり始めている。2回目の時、伊豆の間伐材で食の器をつくる木工職人、有城道具店の有城さんに、木のスプーンづくりを教えてもらった。
ある程度の形になったスプーンの原形を、ナイフを使って形を整えて、スプーンに仕上げる。大きなキンモクセイの下におかれた丸太のイスに、あるいはビーハイブさんのデッキに腰かけて、参加者はスプーンづくりを楽しんでいた。
そして、今回、第3回は、11月9日から3日間、行うことになっている。内容は、下の案内にゆずるとして。
今後も毎月1回、開催しますので、ぜひ、遊びにいらしてくださいね。青竹のお皿をつくってくれる、いちご農家のS君が、やはり竹を利用して吊るすハンモックをいつも用意してくれます。気持ちがいいんですね、これが。
田中山は地区の名前でも、場所は山の上ですから、下界より少し寒いです。冬は、どうぞ十分に暖かくして、お出かけください。もっと本格的に冬が来たら、雪も積もるようです。 (積もったら・・・山あそびは、どうなるのかしら?)

田中山の山あそび・第1回目の農業体験の様子。
不耕起栽培の康晴農楽園さんの畑で。もう、みんな、いも掘りに夢中だー!
その名も、「田中山の山あそび」。山の名前ではない田中山で、山あそびをしましょう、しかも、会場はカフェの一庭、という、回文的な、あそび感覚。だから、あそび。あとから考えた理由だけど。
会場は、カフェを兼ねた、はちみつ屋さんのお庭。ビーハイブさんという、その店主、村上さんとは、どこかのイベント出店で一緒になり、はちみつを一瓶、買い求めたのが、親しくなるきっかけだったと思う。
ビーハイブさんの宣伝を先にさせてもらうと・・・。はちみつが、さくら、みかん、クローバー、アカシア・・・というように、花の種類で選べるようになっている。どれも瓶のふたを開けた途端に、ふわっと、その花が香る。透き通るほどに金色の中身も、本当に美しい。普段は伊豆で、夏の間は北海道まで巣箱を3トントラックに乗せて運び、はたらきバチさんに大活躍してもらっているのだという。
わが家でのお気に入りは、パンやヨーグルトには菩提樹。コーヒーには、はぎ。そう。普段はブラックコーヒーしか飲まないのだが、はぎのはちみつが手に入ると、わりと、どっさりと入れて、はちみつとコーヒーの香りとコクを同時にゆったりと味わっている。
今年の春ごろ、村上さんが「今度、田中山に引っ越しました、庭も広いから、なにか一緒にしましょう」と声をかけてくれた。田中山って、おいしい野菜がとれるし、すいかの名産地じゃない?…と、わくわくする思いで聞いた。
しばらくして、田中山すいか祭りに誘われた。ビーハイブさんの向かいにある公民館が、すいか祭りの会場だから、「うちの庭でも小さな市でも開きたいの」と。
いいね、すいか! 大きいのを一つ、買いがてら・・・と出店したところ・・・。10時のイベント開始時には、すでに、すいかは完売という、不思議なイベントだった!! おいしいすいかを求めて、スタート前から行列ができ、気のいい田中山の農家さんたちは、時間など気にしないで、ほしい人にどんどん売ってしまったというわけだ(たぶん)。
それでも、人はビーハイブさんの庭にも流れてきて、バタバタと時間がすぎていった。あれ、すいか、買えてないよ!とあわてて、祭りの会場に飛んでいき、片付けをしている人たちに声をかけていった。あのー、すいかー、ほしいんですけどーー。
アイツに聞いてみて・・・と指さされた、アイツに、すいか、ほしいの・・・と言ったところ、あとで持っていってあげる、と快い返事。
私の店、ピザバスで待っていると、大男のアイツがやってきた。
片方の腕に小さなすいかを2つかかえ、もう片方の手で、ひざとひじをせわしなく指さしながら。
えっ? なに? あーー。ひざ? ひじ? うん、うちはピザだよ・・・。今どき、こんなことで人を笑わそうとする人がいるんだ!おかしかった。お金はいらないと言ってくれたすいかは、あまくておいしかった。
しばらくして、その彼、T君と、ビーハイブさんに遊びに行った。田中山、いいところでしょう? もっと盛り上げたいんだよ。若い人が少ないから、このままじゃ、人がいなくなっちゃう・・・と、田中山で生まれ育ったT君は、口早に熱く語る。
村上さんも、私も、田中山がいいところなのは、よくわかる。そして、人が集まってにぎわうことも好き。そうだね、月に1回、なにかやってみようよ・・・。そんな話になり、村上さんが最後に言った。「次の田中山を考える会、いつにする?」その瞬間が、会の発足時だと、私は、ひそかに認識している。
でも、田中山を考える会という名前の会は、以前から存在しているらしかった。じゃあ、名前はどうしよう、イベントのタイトルは? いつからはじめる?・・・という具体的なツメが、夜な夜な重なっていった。
そして、(しかしながら)会の名前は未定のまま、イベント「田中山の山あそび」が誕生した。第1回は9月の最終週、10月は第1週の、それぞれ週末に(10月は月曜日が祝日だったので、実際には日・月)に開催した。した、というよりは、してしまった、という勢いのある感じだけれど。
9月は、村上さんやT君の友達やピザバスの常連さんが来てくれて、まあまあの盛り上がりだった。10月は、観光客も結構、来てくれて、忙しかった。どちらの回も、前日に地元の旅館や飲食店にチラシを配った程度の宣伝しかしていないというのに・・・。
イベントの副題には、「ちいさな市と、農業体験」と銘打ってある。出店や出品は、毎回、せいぜい10店舗程度。プラス、主催者と応援者によって、「田中山おにぎりランチ」が用意される。
地元産の白米に黒米を混ぜて炊いたご飯でおにぎりをむすび、季節の野菜を少し添えただけの、シンプルなランチ。青竹を割ってつくったシンプルなお皿に、葉っぱを敷いておさめると、これが、ほのぼのとして、いい雰囲気。毎回、あっという間に完売してしまう、人気メニューのひとつだ(お皿は、いちご農家のS君がつくってくれている)。
農業体験は、昼夜の寒暖の差が大きい田中山は畑作が盛んだし、普段、畑や土にふれることの少ない(であろう)都会の人などに、癒しも兼ねて、命につながる体験をしてもらえたら・・・という思いで加えた。
1回目は、不耕起栽培という、畑を耕さない、起こさない、もちろん農薬や化学肥料は使わない、という農法に取り組む、田中山の康晴農楽園さんに協力してもらい、さつまいもと落花生の収穫体験を行った。
ここの野菜は、のびのび育ててもらったの! と、笑っているような表情をしている。しかも、野菜の味がきちんとする。背筋がピンとまっすぐな感じ。絶対、無駄にはいたしません、と、思わず手を合わせて誓わずにはいられないような野菜。もちろん、それは、おいしいからだ。
ちなみに不耕起というのは、土は深さによって棲む微生物が異なるから、その生態環境を壊さないために耕さないし起こさないそうだ。自然のままにしておくと、微生物たちがしっかりと働いてくれて、肥料や農薬を与えなくても、病気にも虫にもやられない、元気で丈夫な野菜に育つのだという。その代わりに、相手はどこまでも「自然」だから、一般的な農業とは比較にならないほど、さまざまな知恵や技術の研鑽を必要としているように見受けられる。
農業体験の2回目は、T君の畑、takada Farmさんで、さといも、さつまいも、落花生を収穫した。季節がら収穫体験が続いたけれど、機会があれば、種まきや苗植えなども盛り込んでみたいと考えている。また、村上さんたちとは共同で畑を借りて、田中山の新しい特産物をつくるための耕作をしてみようか…その畑で農業体験というのもいいよね、という話もしている。
また、田中山の山あそびに、手づくり体験も大切なメニューのひとつになり始めている。2回目の時、伊豆の間伐材で食の器をつくる木工職人、有城道具店の有城さんに、木のスプーンづくりを教えてもらった。
ある程度の形になったスプーンの原形を、ナイフを使って形を整えて、スプーンに仕上げる。大きなキンモクセイの下におかれた丸太のイスに、あるいはビーハイブさんのデッキに腰かけて、参加者はスプーンづくりを楽しんでいた。
そして、今回、第3回は、11月9日から3日間、行うことになっている。内容は、下の案内にゆずるとして。
今後も毎月1回、開催しますので、ぜひ、遊びにいらしてくださいね。青竹のお皿をつくってくれる、いちご農家のS君が、やはり竹を利用して吊るすハンモックをいつも用意してくれます。気持ちがいいんですね、これが。
田中山は地区の名前でも、場所は山の上ですから、下界より少し寒いです。冬は、どうぞ十分に暖かくして、お出かけください。もっと本格的に冬が来たら、雪も積もるようです。 (積もったら・・・山あそびは、どうなるのかしら?)

田中山の山あそび・第1回目の農業体験の様子。
不耕起栽培の康晴農楽園さんの畑で。もう、みんな、いも掘りに夢中だー!
Posted by eしずおかコラム at 12:00